苦い燻製の原因は? 熱源の火加減により燻煙の風味が変化する理由について

苦い燻製の原因は?

燻製は熱源の火加減で風味が変わります。

燻製が苦くなるのは木材の燃焼温度が高すぎたためです。燻製は木材を燃やした(不完全燃焼させた)際に生じる風味を利用していますが、燃焼温度が高くなるほどに辛くスパイシーな風味が強くなる傾向にあります。

これは燃焼温度の低いセルロースやヘミセルロースが甘くフルーティーな風味を発するのとは違い、燃焼温度の高いリグニンは辛くスパイシーな風味を発するためです。

燻煙の匂い成分とは?

燻煙前のチップ
燻煙前のチップ
燻煙後のチップ
燻煙後のチップ

燻煙の風味は木材の基礎成分により変化します。

木材はセルロース(細胞壁の枠組み)、ヘミセルロース(細胞壁の充填剤)、リグニン(細胞壁補強材)により構成されています。セルロースとヘミセルロースは糖分子が結合したもの、リグニンはフェノール性分子が複雑に連結したものです。

これらの基礎成分は燃焼により異なる副産物を生成します。

木材成分風味
セルロース甘い匂いや果実、花、パンなどの匂い
ヘミセルロース
リグニンスパイス臭、甘い匂い、ツンとする匂い

このため燻煙材にはリグニンの少ない木材が好まれます。

また、リグニンの割合の多い燻煙材は燃焼温度が高くなるために発がん性の証明されている多環芳香族炭化水素(PAH)が多く生成されます。そのために長期的な健康を考えた場合には熱源の温度を高くしすぎないことがポイントになります。

常緑樹に関しては樹脂が多いために燻煙材にはなりません。

MEMO
リグニンの多い木材が燻煙材に用いられることもあります。たとえばメスキート材はリグニン含量が64%と非常に高いにもかかわらず燻煙材としても利用されています。一般的なリグニン含量は広葉樹で20~25%、針葉樹で25~35%ほどです。

燻煙の風味と燃焼温度の関係は?

燻煙の風味と燃焼温度の関係は?

燃焼温度が高すぎると苦味が強調されます。

燻煙材の燃焼温度は比較的低温(300~400℃)が最適だと考えられています。これはセルロースとヘミセルロースの燃焼温度帯であることに加えてリグニンが積極的には燃焼されない温度帯であるためです。

以下は基本成分の燃焼温度です。

木材成分燃焼温度
セルロース280~320℃
ヘミセルロース200~250℃
リグニン400℃

燻煙材は300~400℃で燃焼させるのが理想です。

そのため燃焼温度の高い燻煙材(メスキート材など)を使用する場合には「密閉性の高い燻製器を使用する」「スモークチップを水で湿らせる」などの対策が取られます。また、高すぎる温度は風味分子自体が分解されてしまうために異臭の原因にもなります。

ちなみに着火してしまう場合には注意が必要です。

木材の引火温度(口火により火が付く温度)は260~290℃ほどであり、発火温度(自ら火を発する温度)は350~450℃ほどです。着火してしまうということは、温度が高すぎる可能性が高いといえます。

適切な温度帯での管理ができていれば引火してしまうのは稀なことです。

【まとめ】苦い燻製の原因は?

燻製が苦くなるのは燻煙材の燃焼温度が高すぎるためです。木材(燻煙材)は不完全燃焼することで燻煙が発生しますが、燻煙は燃焼温度によって燃焼副産物が変化します。たとえば280~320℃ではセルロース、200~250℃ではヘミセルロースが燃焼するために甘くフルーティーな風味が生成され、400℃ではリグニンが燃焼するために辛くスパイシーな風味が生成されます。また、温度が高すぎると風味成分自体が分解されてしまうために異臭が生じてしまうこともあります。これらのことからも燻煙材の燃焼温度は300~400℃ほどが理想的だと考えられています。

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