ぬか床には卵の殻を加えることがあります。
卵の殻(卵殻)の主成分は炭酸カルシウムです。炭酸カルシウムは塩基性(アルカリ性)であるため、酸っぱくなりすぎたぬか床に卵の殻を加えると乳酸(酸性)が中和されることにより酸味が和らぎます。
そのため、昔ながらの知恵として卵の殻を加えることがあります。
卵の殻を加えるメリットは?

卵の殻には即効性があります。
乳酸菌が増えすぎて酸っぱくなりすぎたぬか床に卵の殻を加えると、短時間のうちに酸味が和らいでいきます。卵の殻の主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)にはそれほどの効果があり(医薬品としての)制酸剤としても利用されているほどです。
低すぎるpHはぬか床を腐らせることがあります。
基本的に、ぬか床は6~8%の塩分濃度とpH4.3程度の水素イオン指数によって腐敗菌の増殖を防いでいますが、あまりにもpHが低くなりすぎると乳酸菌は自らの生成した乳酸によって死滅してしまいます。
乳酸菌が死滅すると急激なpHの上昇が起こりますので、酸を苦手としていた腐敗菌が増殖することによりぬか床を腐らせてしまいます。
このような腐敗を防ぐためには、卵の殻を使った酸の中和が効果的であることもあります。
卵の殻を加えるデメリットは?

基本的に、卵の殻はおすすめしません。
卵の殻(炭酸カルシウム)にはぬか床の酸を中和して「酸味を和らげる」「低すぎるpHによる乳酸菌の死滅を防ぐ」などの効果があります。しかし、「サルモネラ菌の侵入」や「pHが上がりすぎたことによるぬか床の腐敗」のリスクもあります。
特に注意してほしいのがpHの上昇(アルカリ化)です。
繰り返しになりますが、酸性pHはぬか床の腐敗を防いでいます。卵の殻を直接ぬか床に入れてしまうと急激なアルカリ化が起こります。また、卵の殻からは長期にわたって炭酸カルシウムの溶出が起こることになります。
どうしても加えなければいけない場合にはお茶パックなどで包んでから加えるようにしてください。
卵の殻を使わずに水素イオン指数を変えるには?

ぬか床のpHは卵の殻を使わなくてもコントロールできます。
たとえば、足しぬかをすれば物理的に酸は薄まることになりますし、水分量が減少して気相が増えることにより酵母菌が優位になり乳酸菌の働きは抑え込まれることになります。また、冷蔵庫管理に切り替えて微生物全体の働きを抑制してしまう手段もあります。
微生物の特徴を理解できていれば卵の殻に頼る必要はありません。
特徴 | 乳酸菌 | 酵母菌 |
---|---|---|
発酵様式 | 乳酸発酵 | アルコール発酵 |
生育 | 早い | 遅い |
酸素 | 感受性 | 耐性あり |
生育温度 | 20~45℃ | 10~35℃ |
乳酸耐性 | 強い | さらに強い |
アルコール | 感受性 | 耐性あり |
ぬか床の主役は乳酸菌と酵母菌です。
乳酸菌は乳酸を生成して爽やかな酸味を付与しますし、酵母菌はアルコールを生成して芳醇な香りを付与します。また、有機酸とアルコールはエステル化することにより様々な香味成分を生み出しますので、乳酸菌と酵母菌のバランスがポイントであるといえます。
ぬか床の基本的な管理方法には理屈があります。
【まとめ】ぬか床に卵の殻を加える効果は?
卵の殻はぬか床の酸味を和らげます。これは卵の殻の主成分が炭酸カルシウム(CaCO3)であるためです。炭酸カルシウムは塩基性(アルカリ性)であるため、酸っぱくなりすぎたぬか床に卵の殻を加えると水素イオン指数(pH)が中和されることにより酸味が和らぎます。ぬか床の極端な酸性化による乳酸菌の死滅を防ぐためには有効な手段であるといえます。しかし、「サルモネラ菌の侵入」や「pHが上がりすぎたことによるぬか床の腐敗」のリスクがあることも事実ですので基本的にはおすすめしていません。酸味が気になる場合には足しぬかなどで対応することをおすすめします。