麹はぬか床の発酵を促進させます。
麹(米麹、塩麹、麴甘酒など)には多くの酵素が含まれています。たとえば、でんぷんを分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼなどをはじめとした複数の酵素です。
これにより「でんぷんが糖に分解されて微生物の餌になる」「たんぱく質が分解されてうま味が増す」「嫌な臭いが分解される」などのメリットが得られます。
ぬか床における麹の働きは?

麹に含まれる酵素は、様々な成分を分解します。
麹を加える目的は、麹に含まれている豊富な“酵素”にあります。酵素とは、生体化学反応に対しての触媒として機能する分子です。麹に含まれる酵素は、麹菌が死滅しても失活することなく作用しますので多くの発酵食品に利用されています。
特に重要視されているのが、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの3種類です。
でんぷんを分解する酵素とは?

アミラーゼは、甘味を作ります。
米ぬかには澱粉が含まれており、アミラーゼ(グルコアミラーゼ)が澱粉を分解してグルコース(ブドウ糖)を生成することにより甘味が強くなります。これは、麹甘酒が甘くなるのと同じ仕組みです。
グルコースは微生物(乳酸菌や酵母菌など)の餌になります。
ぬか床の主要な微生物である乳酸菌や酵母菌などはグルコースを消費することにより増殖して様々な成分を産生します。ぬか床の爽やかな酸味や豊かな香味は乳酸菌や酵母菌がバランスよく生育しているからこそのものです。
米麹は、発酵促進剤のような働きをするということになります。
たんぱく質を分解する酵素とは?

プロテアーゼは、うま味を作ります。
米ぬかにはたんぱく質が含まれています。プロテアーゼはたんぱく質を分解してアミノ酸にする酵素ですので、ぬか床のうま味が強くなります。プロテアーゼには、たんぱく質の可溶化、ペプチドの生成、遊離アミノ酸の生成などの働きがあります。
米ぬかにはたんぱく質が豊富です。
ぬか床に慣れていない方の中には「うま味=足すもの」だと考えられている方も少なくありませんが、米ぬかには約10.7%ものアミノ酸組成によるたんぱく質が含まれていますので、うまく手入れをしていればうま味は強くなっていきます。
うま味は足すものではなく、熟成により作られるものなのです。
嫌な臭いを減らす酵素とは?

酵素には、悪臭を和らげる働きもあります。
ぬか床には、多種多様な香気成分が含まれています。たとえば、酸、アルコール、エステル、フェノール化合物、ラクトン類などが有名であり、これらの香気成分には良い匂いもあれば悪い臭いもあります。
麹にはリパーゼ(脂質を分解する酵素)やエステラーゼ(エステルを酸とアルコールに分解する酵素)などが含まれている他、悪臭を放つ酸(プロピオン酸や酪酸など)を分解してくれる微生物を元気にする効果もあります。
これによって、脂質や有機酸に起因する嫌な臭いを和らげることにつながります。
麹を加えるデメリットは?

ぬか床の麹を加えることにはデメリットもあります。
ぬか床に麹を加えると、良くも悪くも“澄んだ味”になります。これは、リパーゼやエステラーゼなどの働きによって香りに関わる成分が減少してしまうためです。香りには臭気成分もあれば香気成分もあります。
これにより、物足りない味になると感じられる方も少なくありません。
【まとめ】ぬか床に麹を加える効果は?
米麹は、ぬか床にとっての発酵促進剤のような働きをします。これは、米麹に含まれている豊富な酵素が米ぬかのでんぷんを分解して糖(グルコース)を作り出すためです。グルコースは微生物(乳酸菌や酵母菌など)の餌となって発酵を促進させます。また、米麹にはたんぱく質分解酵素や脂質分解酵素なども含まれていますので、「うま味が増す」「コクが出る」「嫌な臭いが減少する」などのメリットも得られます。